箱庭 2026夏

今年の夏は特に雨が多かった。8月の空は水気を含んだダークグレーの雲に埋もれていた。日が射すことはついにほとんど無かった。

夏、の写真を今、11月になってまとめ直している。今日、初めて息が白くなった。寒い。皮膚の輪郭が感じられるほど、寒い。また雨風が強くなった。

ほぼ冬のような寒さのなかで、私は、夏の写真を見て、雨の情景をぼんやりと思い出している。

外に出られず、たるんだエネルギーを持て余して、私は連日、絵を描いて本を読んでは飽きて、冷蔵庫の前をウロウロしていた。そうして畳のうえに寝っ転がっていた。湿った土の匂いと線香の香りがした。

セミがにわかに鳴き出して窓の方を見れば、カーテンが明るく白んでいた。午後の光のなか、私はカメラを持って自転車を漕ぎ出した。

南に15分ほど行くと、小さな山がある。麓の神社に自転車を止めて、日の差す坂道を足早に上る。

部活だろうか?すれちがう高校生からは、調弦を欠いた喋り声が聞こえ、やがて消えていった。

さらに30分ほど歩くと頂上に着く。が、私が覚えているのはむしろ、頂に着く前の景色だ。木々の間から、薄く青みがかった街が下方に見える。嬉しさに歩みを止める。雨上がり、夏草がつんと匂った。

今、私は、写真を見て集めて消して並べ替えている。そして思う。

夏がやたら青く輝いて想起されるのは、嘘だ。今年の夏はたしかにダークグレーだった。

それなのに、手元には、このうえなく青い写真ばかりが残ってしまった。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする


目次