『史的システムとしての資本主義』感想 | 世界システムの現在地

資本主義は全世界でただ1つの実体である。それを「史的システムとしての資本主義historical capitalism」と名付けよう。

『世界システム論』でよく知られるウォーラーステインは、この宣言から分析を始める。

もちろん資本主義を歴史上唯一の実体と見るからには、その分析は、現実に根ざした、広範で帰納的なものとならざるをえない。文庫本にしては情報量が多すぎる、というのが率直な私の感想だ。

正直、どこまでウォーラーステインがどれくらい遠くまで見通していたのかはよくわからない。ましてや、専門家でも意見が分かれるような領域について、妥当性はまったく判断しかねる。

ただ彼の議論は大枠ではすごく正しいもののように思えた。『人新世の資本論』で書かれている現実のデータともかなり合致していたと思う。

資本主義は第一に複合的なシステムである。それは経済の領域だけでなくて、世帯、国家、政治などの様々な論理がぶつかる、多面的なシステムである。……それぞれの世界で合理的な選択が、結局システムとしては不合理、ということが起こりうるのも、だから当然である。

史的システムとしての資本主義の第二の特徴は、世界的な現象であることだ。だから国家でさえも、資本主義に従属する存在に過ぎない。その超国家的ルールは、この本においては「インターステートシステムInterstate system」として名指される。

私が驚いたのは、人種差別と女性差別は資本主義の必然的な産物であるという説明だ。

まず女性差別については、資本主義以前から存在していた性別役割分業制が、優劣をつけられることによって生じる。他人が占有しうる剰余を産む仕事=賃金が払われる労働=「生産的」で価値がある、家庭内労働のように労働者自身の再生産に必要とされる労働=「非生産的」という価値観が持ち込まれた。(イヴァン・イリイチの「シャドウワーク」を私は思い出した)。男女による分業そのものは、ずっと昔から存在していた。しかしそれが「凹と凸のかみ合い」で無くて、男性労働が優位となったのは、生産力一元主義による。

人種差別は、ある人種集団が能力主義の底辺に置かれている理由を説明するために行われる。特定の仕事に、安い対価で従事する人種集団は、「文化」が原因なのではない。資本主義によってそう構造化されているからだ。つまり人種差別は、資本主義外部の異集団に対する外国人嫌いではなく、システム内部の特定の労働者群を劣位に固定するためのイデオロギーなのである。

史的システムとしての資本主義においては、格差はどんどん開いていく。しかしその格差の拡大、労働者の窮乏化は、世界的なレベルで展開されるためにほとんど気づかれることがない。この中心/周辺モデルについては、『人新世の資本論』が詳しく説明している。日本での安泰な暮らしは、インド、アフリカ、東南アジア諸国などの搾取システムによって支えられている。

40年以上前に書かれたこの本ではあるが、「将来の見通し」は2026年現在、おおよそ当たっているように思える。世界システムのルールから逃れる『ホメイニの選択』、世界システム内での逆転を企てる『サダム・フセインの選択』、非合法移民が中心国に押し寄せる『ボート・ピープルの選択』。そしてもちろん世界システムに従う選択もある。北アメリカ・西ヨーロッパでこの現象は進む、という予測はほぼ当たっている。(トランピズムなどはその反動だ)。日本においてさえ移民流入は進んでいる。

国家の弱体化、保護を求めた争い、私的な保護のための機構の拡大。いずれも極めて正しいと思う。

そもそも資本主義は根源的には無政府的である。つまり、生産・配分を統御する主体が存在しない。この資本主義にはボロがどんどん出てきている、というのが私自身の感想だ。おそらく私と同じ世代の多くの人が、漠然と感じているのではないだろうか?環境問題はその一つだろう。

私は革命や共産主義には懐疑的だが、資本主義にはもっと悲観的だ。

来るべき未来社会はどうあるべきか?現実的に、将来ありうる社会はどんなものだろうか?

ウォーラーステインの描く3つの世界は、斎藤幸平の描く4つの未来ともよく対応している。新種の封建制(ソヴィエト的社会に近い?)、民主的ファシズム(世界的な階級文化)、分権化された平等なユートピア(共同体に基礎を置く水平的自治)、という世界。

私としては第3のユートピアに期待したい。しかし、国家権力を奪取した反システム運動も、結局はインターステートシステムの制約によって資本主義に従属せざるをえない、とこの本でも指摘されている。

現状の資本主義の内部から、自然に移行できる現実的な未来社会は、未だに描かれていない。

沈みゆく船で帆を磨き続ける人間ではなく、新しく筏を組む人間でありたい。そう思う今日この頃だ。

(写真: Immanuel Wallerstein, “6th Gaidar Forum 06.jpg”, Wikimedia Commons, CC BY 4.0, Author: government.ru)

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