はじめは、ただの間違い探しだと思ってた。
今、ゲームを作ってて強く感じる。8番出口のデザインはすごく洗練されていたんだな、と。
8番出口の構造の美しさについて語らせてほしい。
空間の設計
8番出口は、「異変を見つけたら引き返すこと」をルールとして、ひたすらループする駅通路から脱出することを目指すゲームである。
それだけ、のはずなのに、やたら怖くて癖になる。
まず注目したいのは、その空間設計だ。
8番出口では言葉がほとんど使われていない。「異変を見つけたら引き返すこと」「n番出口」の標識くらいで、いわゆるゲーム的なUIは全く無い。
だから説明をデザインに落とし込む必要があるのだが、その点、一本道の通路が設計としてすごくうまい。正常/異変発見、に対するアクションを、前進/後退へとうまく対応させている。説明の無いゲームで、直感的な身体操作がうまく結びついている。なおかつ一本道に曲がり角を2個挟むことで、全体を見通せなくしている。
このさりげないデザインが美しい。
n番看板の3重の意味
ここからがデザインの核心。8番出口の看板表示は、3重の意味を帯びている。

ゲームを、他のあらゆるメディアと区別している本質は何か?
プレイヤーの行動に対するフィードバック、だ。
特に反復する空間を進むゲームでは絶対的に重要だ。正解/不正解はゲームに方向性を与えるから。
と、同時に、n番看板はゲームの進捗状況も示す。「進んでる感」を出せる。看板は、ループのなかに埋め込まれた、唯一の「ループを超えたもの」なのだ。
さらに重要なこととして、そのフィードバックはとても「意地悪」なのだ。
プレイヤーは、異変ゾーンを抜けて2つ目の角を曲がるとようやく看板を見れる。歩いている間は、正解か不正解かを知ることができない。解答は遅延して教えられるし、しかもそのフィードバックは正解か不正解かしか教えてくれない。「何を間違えたのか」はわからない。この「意地悪さ」=余白が、不安を駆り立てている。
つまり。n番看板は、進捗状況と同時に正誤のフィードバックを返すことでプレイヤーを導き、かつ、そのフィードバックには空間的・時間的・論理的余白が活かされている。
ここで結論を予告する。このゲームの本質は、「判断材料を与えられないまま判断させられる構造」だ。
異変について
このゲームでは、顔、とりわけ目を暗示する異変が多い。それは「まなざし」の持つ束縛の効果が関わっているはずだが、ここではざっくり話すに留めよう。
なぜ目が恐怖の根源か?目線は、メタ的なメッセージを発しながら、なにも教えないからだ。「なにを欲するか」は告げずに、「なにかを欲されている」だけ告げる目線は、見られる人の解釈を惹起する。「目は口ほどに物を言う」というのは、目線と文脈が、見られる人に「何をすべきか」のヒントを伝えるからだ。
しかしホラゲーでは目が文脈から切り離されて、単体として出てくる。
「なにか期待に添えないと悪いことが起きるのではないか?」と思わせといて、その実、まったくヒントを与えない、理不尽な構造なのだ。
(よくわからないという状態が、不安へと傾くのは、生物学的に必然だ。もともと、視線は敵からの攻撃の予兆だったし、非力な乳幼児の段階では、親のまなざしからなにかを読み取ることは生死にかかわる問題なのだから。)
なにはともあれ、ホラゲーに目が頻出なこと、目がプレイヤーにとって恐ろしいことは、確かだ。

まとめ
以上、8番出口のデザインについて軽く追ってみた。
全体を見通せない閉鎖空間、n番看板の意地悪なフィードバック、目線のメタファーとしての異変。これらが協同的にかみあうことで、独自のこわさを演出する8番出口は、ほんとうに見事だと思う。
それはホラゲーを作ってる私が一番実感してる。
ゲーム設計、つまりプレイヤー体験の誘導や不安の演出は、本当に難しいのだ。特に、「安直な恐怖演出」に頼らない、不安を重視するゲームならばなおさら。
ここでは私の制作中のホラゲーへの応用についても軽く書いてみる。
まず、「意地悪なフィードバック」はとても有用だ。私は、「n番」のような表現の代わりに、フィードバックを照明演出や時間制限と組み合わせたい。間違えたら、その先の先の空間を遅れて暗くする。さらに「0:00」に向けてカウントダウンする時計の針を一気に進めてしまおう。閉鎖空間とカウントダウンは、とても相性がいいはずだ。
視線のメタファーは、目を隠すことで逆に目を暗示させる形式にしたい。マグリットの絵のように。

進む/戻るという直観的な誘導は、とても強力だが、残念ながら私のゲームでは使えない。その代わり、最初に視界に入る明るくて広い出口を「進む」と対応させ、狭くて暗くて降りる階段になっている出口を「戻る」に対応させるつもりだ。少しこころもとないが、プレイヤーの判断力・野性的なカンを信頼するしかない。
と、いうことで今回は以上、8番出口のゲームデザインについての話でした。ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


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